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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

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ド◯えもん。2

「ド◯えもん…。といえば解るかい?」

彼は窓の外を眺めながら、そう言った。俺の答えは一つだった。
わかるか。俺はの◯太君じゃない。訳が分からなくて彼に問う。

「解らないです。どういうことですか」

彼は微笑しながら俺を見る。

「ぼく、ド◯えもん」

あまりのシュールさに吹き出しそうになるのを必死でこらえた。その美しい顔にその台詞は反則だ。しかも爽やかな風が吹く中で朝日をバックに、格好付けながら言われたので、攻撃力があまりに高かった。にしてもなんだこいつキモい。

「いや、あの、えっと。どこから来たんですか?」

別に何かを期待していた訳じゃない。ただ何となしに、この質問をしてみたかったのだ。そう、決して何かを期待してのことではない。彼はしばらく考えるようにうつむくと、口を開いた。

「未来から来たのさ。君を助けにね。」

予想以上にかっこいい言葉が返ってきた。さすがに未来の世界の猫型ロボットとはいかないらしい。にしても、訳が分からない。

「意味が分かりません。」

素直な感想を言う。

「今はまだ解らなくていいよ」

そう言うと彼はゆっくりと立ち上がる。すらっとした体。立ち上がると予想以上に背が高い。180後半ほどあるのではないだろうか。俺は164ほどしかない。うん。くそっ。とにかく足の長さが目だった。そしてイラっときた。彼は言葉を続ける。

「朝早くから悪かったね。まだ眠いのだろう?眠ったらどうだい?」

いやいや、勝手に人の家に入ってきて何を言っているのだろうか。得体の知れない人間を自分の部屋に放っておいて眠ることなど、出来るはずもないだろうに。

「いや、あなた何ものなんですか?泥棒?」

少し語気を荒めて言った。彼はフッと笑う。腹立つ。

「今はまだ知らなくていいんだよ。とにかく私は『ド◯えもん』だよ。それ以外の何ものでもない。さぁお眠り」


キザな態度にイライラする。そして、その態度が様になる容姿にも腹が立つ。彼は言うが早いか、俺に近づいてきた。反射的に身構える。細いとはいえ、大男がこちらにずんずんと向かってくる圧迫感は、恐怖だった。そして彼は俺の前で立ち止まると、俺の頭に手を乗せようとした。俺はそれを払う。

「なにすんだよ。」

払われた手をぶらぶらとさせながら、彼は溜め息をついた。

「とりあえず今は言うことを聞いておきなさい。私は『ド◯えもん』なんだよ?」

強い口調でそう言った。大男に見下ろされながら言われるのはなかなか迫力がある。にしてもまたドラちゃんか。あー腹立つ。わけがわからない。いっそ大声を出してしまおうか。なんてことを考えていたその時。

ガシっ

信じられないような早さで彼の右手が私の首根っこを掴む。思わずうなり声が出た。掴んだ右手には小さいながら指輪がはめられていて、それが首の肉に食い込んでひどく苦しかった。

「声を上げるのはやめてもらおうか。さぁお眠り。起きたらまた話そう。」

優しい声色が、余計に迫力を増長させていた。彼は首の握りを強める。俺は両手を使って引きはがそうとしたが、その細い腕には似合わない信じられない力で、まるで敵わなかった。
うなり声とともに、口の端から涎が垂れる。苦しくて手足をばたつかせた。薄れ行く意識の中で、最後に見たのは、彼の優しい微笑みだった。



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ドラ◯もん。1

ひどく暑い、夏のある日のことだった。
その日はどうしてだか、朝の四時頃に目が覚めてしまった。いつも眠りは深い方なので、学校のある日でも、大抵遅刻ぎりぎりまで絶対に起きないのだけれど。珍しいこともあるものだと、だるい体を布団から起こし、のそのそと用を足しに行く。トイレは一階にしかないので、出来るだけ足音がしないように、そろりそろりと階段を下りる。ふぁぁ。あくびが止まらない。まだ外も暗いようだ。部屋に戻ったらもう一眠りしよう。用を足し終え部屋に戻ろうと、階段を上り、自分の部屋の扉に手をかける。

…?

自分の部屋から、風を感じた。外の音も聞こえる。窓は開けていないし、クーラーもついていないはずなのだけれど。まさか、泥棒か?この短い間に?
恐る恐る、ゆっくりと扉を開ける。


案の定、窓は開いていて、朝の柔らかな光が部屋を覆っていた。思わず顔をしかめる。そしてその光の中に、誰かがいるのが見えた。まだ目が慣れていない私には、まるでその『何か』が今まさに、光の中から生まれようとしているように見えた。不思議と恐怖は薄らいでいた。なによりも、あまりに不意打ちに現れた幻想的なその光景に唖然していたのだ。


光の中に目を凝らすと、窓辺に誰かが座っているのが見えた。その『誰か』は、私の部屋から見える町の風景をじぃっと眺めていた。長く綺麗な金髪が風になびいてきらきらと光っている。外を見ているので顔はわからないが、随分と細くて長身。後ろ姿からでは男か女かさえわからなかった。何より目を引いたのは、その服装だ。赤いマントに白いシャツに黒いズボン。首には黒いアクセサリーをつけていた。まるでゲームの中から飛び出してきたような、現実離れした存在感があった。


「あの…誰?」


恐る恐る声をかける。その『誰か』はゆっくりとこちらを向いた。思わずハッとするほどに整った中性的な顔は、白人女性を連想させた。

「あぁ、君がさとる君かい?」

声は男性の声だった。やたら中性的な男性らしい。

「そう…ですけど。あんた誰?」

素朴な疑問を投げかける。彼は私の言葉を聞くと、呆れるように溜め息をつく。一挙一動が美しく、可憐で精錬されていた。そして再び窓の外に視線を向ける。

「やっぱり、わからないんだね」

寂しげな横顔。それでさえ、美しいと思った。

「…すみません」

訳が分からないまま、謝ってしまった。どうにも彼の不思議な空気感に巻き込まれている。そしてしばらくの間を置いて、彼は言った。

「ドラ◯もん…。といえば解るかい?」



ドラ◯もん。2


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