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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

河童にコーラを飲ましたところ。5


私はその弱々しい人外の手を


そぉぉぉぉいッッ


と思い切り引っ張って、川の中から引きずり出す。激しい水音を立てながら、それは姿を現した。背の丈は1メートルちょっとだろうか。身体は薄い茶色で、背中には亀のような甲羅を背負っていた。顔は、鳥のように尖ったくちばしに、ギョロッとした目。頭には丸い何かが、まるで乗せてあるようについていて、それを囲って申し訳程度の髪の毛(?)が生えていた。


明らかに人外だ。


いや、というか河童だ。
絵に描いたような河童だ。

その河童は川原に引きずり出された途端、暴れてもう一度川へ逃げようと必死でもがくが、私の手はそれの手首を握ったままだ。そうはさせまいと思い切りこちらへ引き寄せる。私は河童がよたよたとよろめいたその隙を見逃さず、彼の足を思い切り蹴り払った。


「ぐぇ」


と声を上げて、河童はその場でひっくり返った。後ろ向きに転んだものだから、甲羅が川原の小石に擦れて、ガシャと大きな音を立てる。見ると、河童は目を見開いて私を見ていた。その眼光に少しぎょっとする。私は荒い息を抑えながら


「なにすんのよ!」


と声をかけてみた。果たして言葉が通じるのだろうか。
河童はこちらを向いたまま、動かない。月明かりに反射して、水気を帯びた身体がギラギラと不気味に光っている。それは雨の日のトカゲやヤモリを連想させた。
さすがに言葉は通じないようだ。どうするか。と思っていた矢先。



「…いえね」


河童が口を開く。


「美しい女性の御御足が見えたもので、つい」


私は驚いて目を見開く。喋った。思いっきり喋った。つーか御御足(おみあし)って。


「つい…って…。引っ張ってどうするつもりだったのよ」


「んん。今晩の夕食にしてもよいですし、はたまた怖がらせるだけでも一興。恐怖する女性の表情というのは、美しいものです」


「……」


仰向けで寝転がったままのそれは、淡々と言った。なんというシュールな図。顔はハ虫類そのものなのに、その声と言葉は、人間のそれと同じだった。少し低めの男性の声といったところだろうか。


「あの」


私が言葉に詰まっていると、河童は


「起こしてくださいませんか」


と言った。アホか。


「嫌よ」


私は答える。


「…どうしてです?」


「また襲われるかもしないしね。自分では起きれないの?」


「大きな甲羅が邪魔なもので、こういう時は助けがないと立つことが出来ないのです」


「そう」


確かに、その小さな身体には見合わない、大きく立派な甲羅だ。仰向けの河童というのもなかなか珍しい。こう見るとただの大きな亀にも見えるけれど、人間のそれと変わらないほどに長い手足と頭のお皿は、亀とは一線を画す。そして仕舞には話せるなんて。変なの。


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