歌い手と踊り手 短編 2013年08月04日 それは大きな大きな木だった。太く立派な幹と、ごつごつとした木肌は随分と長い間この地に根を下ろしていたことを示していた。いくつにも分かれた枝は一つ一つが長く、電線の上まで伸びている。そこから広がった青々とした葉は電線を覆い、日の光を遮ってきらきらとした木漏れ日を地面に落としていた。 風が吹き、木が揺れる。その瞬間、葉擦れの音が世界を支配した。時に激しく、時に優しく、木は揺れ、ざわざわと歌う。その歌に気づいた木漏れ日たちが、静かに、ゆらゆらと踊り出した。ざわざわ。ゆらゆら。光と音の、美しいハーモニー。天然のミュージカルは優しく物語を展開させ落ちてくる葉っぱは最高の演出となる。私は心の中で、惜しみない拍手を送った。散歩の中で不意に見つけた、自然の音楽。彼らの優しい歌声はウォークマンでは決して聴けないものなのだ。 ツイート ←1クリックご協力お願いします!PR