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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

閉じ込めた秘密基地

懐かしい写真を見つけた。
故郷の私の家を出てすぐのところにあった、田舎道を撮ったものだ。
舗装された道を脇に入ると、長い砂利道になる。その向こうは一面の畑が広がっていた。
小さい頃は、この辺りの鬱蒼とした林のなかに秘密基地などを作って遊んだものだ。
そしていつもいつも、この畑の持ち主に見つかっては、叱られていた。


私はこの景色が好きだった。
青々とした木々の隙間に木漏れ日が縫い目を作り、風が吹くたびにきらきらと光って揺れていた。
木々が揺れ、ざわざわと歌い出す。その歌に耳を傾けながら、ほんのりと香る花水木に酔うのが好きだった。


だから、そんな素敵な場所に、マンションが建つと聞いた時はひどくショックだった。
あの懐かしくて優しい場所がなくなってしまう。
まるで、子どもの頃の私がいなくなってしまうかのような、寂しくて切ない感覚になった。


だから、私はそれを閉じ込めることにした。
父のカメラを借りて、ファインダーの中に、子どもの頃の私を閉じ込めた。
それがこの写真だ。


今はもう、この景色は見ることが出来ない。
灰色の大きなマンションと、大きな駐車場が出来てしまっている。


切ないことだけれど、この写真の光景は私の中で生きている。
きっと子どもの頃の私は未だに、この写真の中で秘密基地でも作っているのだろう。

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