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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

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電気で動く、私です 3



 人間の考えていることなどわからない。私は人間に作られた機械だ。公園に置かれ、自分の責務を果たす為だけに生まれた身だ。もちろん、嬉しいや悲しいなどの感情はあるものの、人のそれとは随分と差がある。それは『他との繋がり』だ。私のそれは、単純に『商品が売れた』などの類の喜びだ。誰かと離れて寂しい。などといったこともなければ、まして死別の悲しさなどは、全くもって理解できない。たまに公園で雑談をしている暇そうな人間の話を聞いて、そういう悲しさや寂しさがあるということだけは知っているけれど、知識として知ってはいても、共感はできないのだ。だから、私の前でわんわんと泣きはじめたその女の子に対して、私は

「うるさい」

としか思わなかった。

「え・・・?」

女の子が驚いたように周りをきょろきょろと見回す。しまった、声が出てしまったようだ。

「誰かいるんですか?」

その子が恐る恐る、搾り出すような声を出す。もちろん、私は返事など返さない。こんな失敗は初めてだ。人に話しかけるなど…。その子は怯えたように背中を丸め、辺りをうかがっている。当然だ。自分一人しかいないと思っていた場所で、急に至近距離から声が聞こえたら、誰でも怯えるだろう。


その時、私はどうしてだか『この子と話してみよう』という気になった。泣いている理由が知りたかった。という言い訳をつけてみたが、結局は『人間と話がしてみたかった』というのが一番大きかった。その頃の私は、機械としての自覚というか、ストイックさが足りなかったのだろう。人と話してみたいなど、今思えば言語道断だ。

「ここだよ」

私は緊張しながらその子に話しかけた。生まれて初めて自分の声を聴いたのもこの時だった。

「誰…どこですか??」

その子は私の前で問いかける。目の前にいるのに。

「私だよ。目の前。そうそこ!」

きょろきょろとしていたその子の視線が、私の前で止まる。頭の上に大きな『?』が浮かんでいるのが見えた。

「そこ?」

「そう、そこ」

「あなた?」

「そう、私」

その子は、じぃっと私を見つめたまま止まってしまった。そして急にハッとして私の後ろを覗き込む。当然誰もいない。
私は構わず話しかける。

「飲み物を買ってくれてありがとう。美味しかった?」

その子は、口をあんぐり開けたまま動かなくなってしまった。そんなに驚くことだろうか。

「美味しかった…です」

お、返事してくれた。嬉しくなって私は更に話しかける。

「それは良かった。それは人気があるんだよ。売り切れになってしまう日もあるんだ。」

「うん。甘くて美味しい」

「でしょ。しかも今日は特に寒いからね。温まるでしょ?」

「うん。あったかい」

素直な子だ。そして私は本題に移る。



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