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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

電気で動く、私です。4


「どうして泣いていたの?」


私がそう訊くと、彼女は黙って、何かをじぃっと考えるかのようにうつむいてしまった。やはり言いたくないのだろうか?。そしてしばらくして、ぱっと顔を上げると


「家にいたくないの」


と返した。返事になっていないような気もしたが、どうやら話してはくれるようだ。彼女は言葉を続ける。


「家の中にいると、気持ち悪くなるの。だから夜は外にいるんです」


「いつも外にいるの?」


「最近はずっと。」


ということは、少なくともここ三日間ほど、夜は外にいたということだろうか。驚いた。確かここ最近は雨が続いているはずなのだけれど。


「雨の日はどうするの?」


「雨宿りが出来るところを探すんです。でも今日は止んだから、ちょっと歩いてみたの」


この寒い中、雨の中に一人でいたのだろうか。信じがたい話だ。機械ならまだしも、生身の人間、しかも子どもだ。辛かっただろうに。そして彼女は


「卯月さんが来てから、眠れないの」


と言った。


「卯月さんて?」


「新しい、お父さん」


彼女は言いにくそうに言うと、またうつむいてしまった。言葉にしたくない。というのがありありと伝わってくる。なるほど、なかなか複雑な事情があるようだ。『父親』というものがどういうものかは、機械の私でも理解できる。私にも親はいる。私を作った機械だ。それがどういう機械で、どういう外見をしているかは知らないけれど、私がここにいるということは、私にも親がいるということなのだろう。人間のそれとは違う感覚なのだろうけれど、親が自分を作ってくれたかけがえのない存在だということはわかる。


人間には、父と母という二種類の親がいるということは、ここに来て初めて知った。この公園にも、若い男女二人が可愛らしい赤ちゃんを連れて散歩に来ることがある。しかし、この子の言う『新しいお父さん』が意味するところは、私にはわからなかった。私が黙っていると、彼女は言葉を続けた。


「お父さんはちゃんといるのに、どうして違う人が家にいて、その人が新しいお父さんになるのかがわからないんだもん。」


「その新しいお父さんは、君のお父さんとは違うの?」


「違うよ。本当のお父さんはいるもん」


ますますわからない。人間というのは、親が変わってしまうこともあるのだろうか。私には初めてのパターンだ。私には製造番号があるから、生みの親は変えようと思っても変えられないのだけれど、人間にはそういうものはないのだろうか。
むむむ。


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