忍者ブログ

ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

夏の小さな物語 1



 それは私が、小学校の最高学年になってしばらく経った夏のこと。
当時の私は、父の仕事の都合で、生まれ育った町を離れなければ行けなくなり初めての転校に不安を感じていた。新しく友達を作るということが、どうにも想像できなかったのだ。学校の友達のほとんどは、物心つく前からの知り合いで、いつのまにか仲良くなっていたし、幼なじみが一人いれば、そこから友達の輪は広がっていくものなので、意識して友達を作ったことなどなかったのだ。だが、転校ではそうはいかない。誰も自分のことを知らないところへ急に押し込まれても人見知りの激しい私には、上手くやっていける自信などある訳がなかった。


そんな私とは裏腹に兄は、引っ越し先の近所の娯楽施設やイベントごとなどを
毎夜ケータイで調べたりしていた。相変わらず肝が据わっている。
ある時、兄に

「お兄ちゃんは、転校先のこととか、不安じゃないの?」

と訊ねたことがあるが、兄の返事は

「そんな身構えなくても、気の合う人とは自然と友達になれるものだよ」

とお気楽なものだった。人の気も知らないで。


引っ越しまでの数日間、私はこっちの友達に手紙を書いたり両親の荷造りを手伝ったり忙しい日々だったのだけれど、その間もふとした拍子に転校先の学校のことを考えては、溜め息をついたものだ。それほど、当時の私には憂鬱なことだった。


引っ越し当日、私はあまりに長い旅路に耐えきれず
車の中で、深く眠ってしまった。


さて
私が体験した夏の小さな物語は
この引っ越しから始まる。



にほんブログ村 小説ブログへ←1クリックご協力お願いします!
PR