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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

有明に浮かぶ望遠鏡


島原港を出航した後、私は船のデッキに出た。

冷たい風と潮の匂いが体を包む。
私は被写体を探そうと、デッキを歩きはじめた。

足を一歩踏み出すたびに、かんかんとうるさい音が響く。
古い船体は所々塗装が剥げ、黒い錆が目立っていた。

ふと目についたのは、煤けた望遠鏡。
古い船体に張り付くように、いくつも取り付けられていたそれは
どれも、まるでうな垂れるように下を向いていた。



写真は、そのうちの一人。
船の後ろ側に立っていた彼を、出航してきた島原の山とともに
カメラに納めた。

寂しげで、悲しげで、哀愁の漂う彼の後ろ姿は
物憂げに海を見下ろしているようにしか見えない。

新しい『レッドアロー号』なる高速フェリーの登場で
このフェリーを使う人間も随分と減ってしまった。

彼はこの広い海を眺めながら
まだ乗客の多かったあの頃を思い出しているのかもしれない。

そんなことを考えた。



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