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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

『私メリーさん。今あなたの後ろn (ry)』5



ブーン。ブーン。

携帯が鳴った。さぁ、来い。私は電話に出て

「もしもし、佐伯です」

と言葉をかけた。

「......」

返事がない。テンプレート通りなら、ここで「あなたの後ろにいるの」とくるのだが残念ながら私の後ろは壁だ。さてどうくるか。言い知れぬ緊張感が私を襲う。

「もしもし?」

「私メリーさん。今あなたの家の中にいるの。」

メリーさん。アレンジしてきた。これは予想だにしていなかった。まさかこれほどアドリブ力があるとは。つまりこれは、次に私が背を向けた瞬間に襲ってくるということだろうか。さて、どうしよう。彼女は既に家の中にいる。つまり、私の声は聴こえるということだろう。私のやるべきことは一つだった。とにかく、話しかけるのだ。

「メリーさん...いるの??」

......。

返事はない。

「電話くれてありがとう」

......。

返事はない。万事休す。このまま返事がないままだとしたら....。その時だった。

スーー

と、何かが這うような音が聞こえてきた。それは玄関から、こちらへ向かって進んでいるようだった。さすがになかなか、怖い。だが、私は声をかけ続けた。

「入ってきて良いよ?お話ししましょ?」

というが早いか、音が止む。そして、玄関とこの部屋を仕切るドアのノブがガチャと回り、ゆっくりゆっくり扉が開き始めた。闇が、少しずつこの部屋へ流れ込んでくるかのような、重苦しい不気味さがあった。思わずつばを飲みこむ。じぃっと、開いた扉の奥の闇の中に目を凝らすと、そこには一体の人形が立っているのが見えた。


可憐なフランス人形。なのだけれど、ふわふわとしたドレスは縮れ、泥で汚れているのがここからでもわかる。優雅な帽子も所々黒ずんでいるようだ。
とてもじゃないが、大事にされていたとは言いがたい身なりだった。

「こんばんわ」

私は声をかける。こういう状況は慣れている。我ながら肝が据わっているものだ。私は更に続けた。

「こっちへおいで。お話ししよ?」

子どもに問いかけるような、優しい口調になってしまう。それはその人形が予想以上に、細く小さく、可憐だったからだろうか。その人形はしばらく考えるかのようにその場で動かなくなり、しばらくするとスーと、私に向かって動き出した。歩いている訳ではない。『滑っている』という表現が正しいのだろうか。スカートから伸びている脚はいっさい動いていないのだけれど、まるで床の上にレールがあるかのように、滑らかにこちらへ進んでくるのだ。


明かりの下へ来ると、彼女の容姿が明らかになった。フランス人形そのものと言った風貌だ。虚ろな目は、どこを見ている訳でもなく、ただ自分の前の空間を見ている。少しふっくらとした頬に、長くボサボサの髪の毛が掛かっていた。正直な話、印象としては『不気味』意外の何ものでもなかった。

「どうして私の家に来たの?」

と私は問いかけた。

「....」

相変わらず返事はない。怖い。さすがに怖い。自分の鼓動が早くなるのを感じた。どうしたものか。とりあえずビールに手を伸ばし、一口。ぷはぁー。うーん。どうしよ。

「困ったなぁ。何か言ってよ。」

と少し呆れた声で言った。その時だった。
ブーン。ブーン

携帯が鳴る。見ると、非通知。さて、どういうことだろうか。彼女の顔を覗き込む。だが、相変わらず無表情でなにもない空間を見つめている。私はその電話に出ることにした。

「もしもし」
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