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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

河童にコーラを飲ましたところ。1




うおぉぉぉ。何だこの暑さは。
部屋から出て、コンビニへ向けて歩き出すと、あっという間に汗だくになってしまった。全く、夏は苦手だ。べたべたと体に纏わり付く湿気に顔をしかめる。メリーさんは大丈夫だろうか。鞄の中は暑そうだけれど。


コンビニまでの道中、川の流れている林の脇を通る。この場所は風情があって好きだ。川の流れる音と、所々から聴こえる蝉の鳴き声。林の中を進んで、川の近くへ寄ると、今の時期だったら蛍を見ることが出来る。私のお気に入りの場所だ。暑いし蚊が多いので滅多に行かないけれど。


時間はもうそろそろ十二時。田舎なので人通りはない。街灯は少ないし、見通しも悪いので女の一人歩きとなると少し不安になる場所ではある。まぁ、林の反対側には疎らにではあるが住宅もあるし、そして鞄の中には呪いの人形であるメリーさんもいる。護ってくれるかは不明だけれど。いや、私は彼女に呪われている身なのだけれど。


ばしゃっと川の方で、音がした。魚でも跳ねたのだろうか?気にせずに歩く。
ばしゃばしゃ。
随分とアグレッシブな魚だ。発情期か?気にせずに進む。
その時、ふぁさっと私の髪が、激しく揺れた。風もないのに。となると
「メリーさん?」

鞄の中に声をかける。どうしたのだろう。彼女はよほどのことがない限り、私に意思表示をすることはない。不満がある時だとか、私が何かを忘れている時だとか。まして、外でなんて、初めてのことだった。私は鞄の中に手をいれて、彼女を外に出し、その可憐な顔を覗き込む

「どうしたの?」

「....」

彼女はいつもと変わらず、無表情で虚空を見つめている。うーん。喋ってくれれば楽なのだけれどなぁ。でも、何かしらの理由があるはずだ。私は注意深く周りを見渡す。
ばしゃ。
また川の方から音がした。目を向ける。この音が原因だろうか。ただの魚だと思っていたのだけれど...。
ばしゃ。ばしゃ。
これまでよりも激しい音が2回響いた。思わず体が跳ねる。と同時に。髪が激しく揺れた。やはり彼女が何かを伝えたがっている。言いようのない恐怖感。音の主は魚ではないのかしら....?
不安になった私は、コンビニへの道を急ぐことにした。

背後からは、まだ水の音がばしゃばしゃと、まるで私を責めるかのように、夜の闇に響いていた。




河童にコーラを飲ましたところ。2

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