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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

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有明に浮かぶ望遠鏡


島原港を出航した後、私は船のデッキに出た。

冷たい風と潮の匂いが体を包む。
私は被写体を探そうと、デッキを歩きはじめた。

足を一歩踏み出すたびに、かんかんとうるさい音が響く。
古い船体は所々塗装が剥げ、黒い錆が目立っていた。

ふと目についたのは、煤けた望遠鏡。
古い船体に張り付くように、いくつも取り付けられていたそれは
どれも、まるでうな垂れるように下を向いていた。



写真は、そのうちの一人。
船の後ろ側に立っていた彼を、出航してきた島原の山とともに
カメラに納めた。

寂しげで、悲しげで、哀愁の漂う彼の後ろ姿は
物憂げに海を見下ろしているようにしか見えない。

新しい『レッドアロー号』なる高速フェリーの登場で
このフェリーを使う人間も随分と減ってしまった。

彼はこの広い海を眺めながら
まだ乗客の多かったあの頃を思い出しているのかもしれない。

そんなことを考えた。



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坂の下の公園。


引っ越してばかりの頃、私はこの町を知ろうと
よく散歩に出掛けていた。



駅までの道には小さな道と神社。
その日は何となく、いつもの道ではなく
神社の脇を抜けて線路のそばへ行ってみた。



そこは少し急な坂になっていて
その先には小さな公園があった。
この写真はその坂だ。

本当になんとなしにシャッターを切ったのだけれど
思いのほか味のある写真になった。

フェンスの向こうは線路になっていて
たまにガタガタと轟音を鳴らして貨物列車が通りすぎる。

それを横目に坂を下ると、小さな池があった。
大きなマンションに囲まれたこの公園は
子どもたちの格好の遊び場になっていた。

私の引っ越してきたマンションから、この公園が見えることを知ったのは
この写真を撮ってしばらくしてからのことだった。


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森と綿菓子

綺麗な青空に誘われて、カメラを持って外に出た。
深く濃い青色のキャンバスに、綿菓子を千切って撒いたかのような散れ散れとした雲が浮かんでいた。
その雲はゆっくりゆっくり、森の向こうへ飛んで行く。
私もその後ろ姿を追い、森へと足を進めた。
森の向こうの空は赤く染まり、人々に日暮れを告げていた。
青と赤のコントラストに、まばらな薄い雲。
私はカメラのレンズを覗き、シャッターを切る。
森の木々は思ったよりも暗く写った。
だが、それが空の青と夕焼けをより美しくしているようにも見えた。
一日の終わりに向けて動く空の流れ。夕陽に吸い込まれて行く雲の動き。
私はその、美しくどこかノスタルジックな光景に魅せられ
時間を忘れてシャッターを切り続けた。

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味。(R18)



小綺麗な部屋のなか。彼女がシャワーを浴び終えるのを、ベッドの上で待っていた。不思議なものだ。インターネットの掲示板で話しかけた時は、こんなことになるとは思わなかった。あれよあれよという間に、性行為をする前提で会うことになり、今に至るのだけれど、女性経験の乏しい僕は、彼女の堂々とした態度に感服せざるを得なかった。年は僕とほとんど変わらないというのに、こういう、いわゆる『非日常』に慣れているように見えたのだ。それとも女性というのはこういうものなのだろうか。


そわそわしながら、彼女を待つ。このホテルは、ベッドと浴室が曇りガラスで仕切られていて、彼女がシャワーを浴びている間、その細く美しいシルエットが、絵画のように映し出されていた。もう少しであの身体を抱けるかと思うと、私は思わず勃起してしまう。


水の音が止まる。彼女がシャワーを浴び終えたようだ。浴室の電気が消え、ドアが開く。白いバスタオルを巻いた彼女が、僕を見ていた。バスタオルの上からでも解る、彼女の綺麗な身体のライン
に、思わず生唾を飲んだ。

「緊張してる?」

彼女が私に聞く。緊張と興奮が混ざっていた。僕はそれを正直に言う。

「緊張してるよ。こういうの初めてだから…。でも、それ以上に興奮もしてる。」

彼女は微笑んで、僕の隣に座ると、「可愛いじゃん」と言った。恥ずかしい。やはり経験の差があるな。と自嘲した。


見つめ合ったまま、しばしの沈黙。そしてゆっくりと顔を近づけ、軽く唇を重ね、離す。キスの後の表情を見たくて顔を覗き込むと、彼女は恥ずかしげに顔を逸らしてしまった。その仕草が可愛くてたまらず、顔を引き寄せてもう一度キスをする。今度は少し長く、深く。そしてどちらともなく、舌を絡め合い出した。最初はゆっくりと味わうようにだったが、だんだんと激しくなる。彼女と僕の唾液が、びちゃびちゃと混ざり合い、それを貪るように飲んだ。たまに漏れる彼女の喘ぎ声に、頭のなかが熱くなる。僕は情欲のままに、彼女をベッドに押し倒した。


彼女の身体を隠しているバスタオルを剥ぐと、程よく灼けた肌と大きな乳房が露になった。僕は再度、彼女の口を自分の口で塞ぐと、片方の乳房を持ち上げるようにして揉んだ。柔らかく、いやらしい肉感を味わう。すると彼女は声を漏らしながら、艶やかに腰をくねらした。


彼女は舌を激しく絡ませ、快感に身を委ねながらも、私の下に手を伸ばすと、大きくそそり立ったそれを握った。思わず腰を引く。人に触られたのなんていつぶりだろうか。快感が脳を走る。そして握った手をゆっくりと、嫌らしい手つきで上下に動かし始めた。


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蝶は言う。



父方の祖母が亡くなってしばらくして、後を追うように祖父が亡くなった。そういうことってあるものなんだなぁと、私は妙に冷静に捉えていた。もちろん悲しい気持ちはあったのだけれど、どうにも実感が湧かなかった。あの家に誰もいないというのが、信じられなかった。今でも祖父母の家に行けば、いつものように二人が出迎えてくれるような気がしていた。祖父母の家は、まるで寒い日の炬燵のように、温かくて離れがたい優しさがあった。田舎独特のゆったりした時間の中で、ゆったりとした二人と話すのが、私は楽しみだったのだ。


 祖父の訃報を聞いたのは夕方だった。父はすぐに飛行機で九州へ向かったのだけれど、私は仕事の都合上、次の日の朝に九州へ向かった。東京からは約八時間ほど掛かる。長い旅路だ。新幹線で博多までいき、そこから熊本へ、熊本港からはフェリーで海を渡る。島原外港へ着く頃にはもう、夕方の五時近くになっていた。外港からタクシーで祖父母の家へ向かう。懐かしい道だ。小さい頃にここへ来た時、よくこの辺りで遊んだものだった。懐かしい思い出を思い返していると、家へ着いた。


タクシーを降りると、もうお通夜の準備をしていた。懐かしい思い出がよみがえる。大きな門をくぐり、玄関へ続く石畳を歩く。左手には少しばかりの庭園。昔はここで、よくトンボを捕ったりしたものだ。そんなことを思っていると不意に、一匹の蝶が目に入った。白い、小さな蝶だ。それはひらひらと私の目の前を通り過ぎると、庭の奥へ飛んで行く。思わず私は立ち止まり、それを目で追った。


人は死ぬと蝶になる。とはよく言うけれど、もしかしたら祖父か祖母の魂が蝶の形なって、私を出迎えてくれたのかもしれない。なんてことを思った。白くて綺麗な蝶なんて、あの祖父らしくもないか。祖母ならともかく。蝶は庭に咲く花に止まると、動かなくなった。


と、その時だった。
また私の前を、一匹の蝶が横切った。先ほどの白い蝶よりも一回りほど大きい、アゲハチョウだろうか。それはまるで白い蝶を追うように庭へ向かうと、まるで白い蝶の様子をうかがうかのように、近くの花に止まる。そしてしばらく見つめ合うかのように、それぞれの花の上で止まったまま、動かなくなった。


まるでその光景は、祖父と祖母が「おかえりなさい」と言っているかのようだった。白い蝶は祖母。アゲハチョウは祖父。私は彼女らに「ただいま」と、心を込め、小さく言った。するとその言葉を聞いて満足したかのように、白い蝶は花を飛び立つ。アゲハチョウもそれに続いて飛び立つと、二匹で仲良く庭の外へ消えて行った。不思議なこともあるものだと、私は二匹が消えた空を仰いだ。


二人は確かに亡くなった。それは事実だ。けれど、その魂はどこかで生き続けているのかもしれない。あの蝶は、きっと祖母と祖父が私に最後の挨拶をしにきてくれたのだろう。亡くなった後でも、彼女らはそういう形で、私を見守ってくれているのだ。


その後、母にそのことを話すと、母も若い頃同じような経験をしたらしく、親子二代でその不思議な体験をしたことがわかった。
きっといつか私も蝶になって、大切な人に最後の挨拶をする日が来るのだろうか。
そう思うと少し寂しくなった。




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