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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

雨の日には雨の歌を。



電車を降り、ホームから出ると、道行く人が傘をさしていた。
あぁ、雨降ってきたんだ。


確か天気予報では、降水確率は30%と言っていたかしら。
突然の雨だったせいか、駅前には迎えを待っている人が沢山いた。
まぁ、幸い私の家は駅から歩いてすぐだし
念のため折りたたみの傘も持ってきていたから
濡れる心配はないのだけれど。


雨が好き。
何か特別な思い出がある訳ではないのだけれど
ただなんとなしに、雨の日が好きだ。
ぽつぽつと降り始めた雨はアスファルトを濡らし
妖しくぎらぎらと光らせる。
それとほぼ同時に、雨に気づいた茂った街路樹達は
まるで喜んでいるかのように、ざわざわと歌いだす。
さっきまでの車の音が絶えなくて曇った
薄暗く騒々しい世界が
光と音の作り出す、素敵な水の世界に生まれ変わる。


しばらく眺めた後、鞄から折り畳み傘をとりだし
ばさっと開いてその魔法の世界へ入り込む
視界の上半分が傘で覆われて空が少し狭くなる
雫が傘に落ち、激しい音を立てて弾けていた


道路にはところどころ、既に大きな水たまりが出来ていて
車が通るたびに、ばしゃっと水を跳ね上げている。


帰路の途中にある神社の脇に通りかかると
一層、木々の歌が大きくなった
ざわざわ
ざわざわ
一瞬、傘の揺れが治まる。木の下に入ったのだ。
神社の大きな木は、天然の傘だ
と同時に、木々の歌もクライマックス
傘の揺れる音と木々のざわめき。
その耳を覆うかのような大合唱に耳を傾ける。


そこからしばらく歩くと、私の住んでいるマンションがある。
マンションの入り口、屋根のあるところで傘を畳み
ばさばさと水気を切る。
折りたたみ傘だったためか、はたまたゆっくり歩きすぎたのか
脚が少し濡れてしまっていた。
さてと、早々に着替えたいし、お腹もすいた。
私はエレベーターに乗り、5階のボタンを押した


雨が嫌いな人もいる
その気持ちもわかる

雨が好きな人もいる
その気持ちはすごくわかる

雨の日には雨の日の魅力がある
晴れの日も同様だ

雨の日には雨の歌を
晴れの日には晴れの歌を

視点を変えれば
世界は歌で溢れている
幸せで溢れている

雨の日には雨の歌を
晴れの日には晴れの歌を



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