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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

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河童にコーラを飲ましたところ。 プロローグ


※この話からでも大丈夫ですが
一応、中編の『私メリーさん。今あなたの(ry)』の続きです。



 「...死ぬ」

暑すぎる。
七月。夏本番に入り、空気が湿気で重たくなったこの頃。暑いのが苦手な私は毎夜毎夜クーラーを二時間後に止まるように設定してから寝ていた。そうしないと暑くて眠れないのだ。そして朝は汗だくで茹だりながら起きて、何をするよりも先にクーラーをつける。それほどに、私はクーラーを愛していた。それほどに私は彼(?)を愛していたのに…。
二日前のことだ。いつものように会社から帰宅してリモコンのボタンを押したのだけれど

....。

反応なし。何度押しても反応がない。私は絶望した。一応インターネットで解決策を調べたのだけれど、結局、彼(?)は息を吹き返すことはなかった。次の日の朝、大家さんに事情を話したのだけれど修理は三日後くらいになってしまうとのこと。それから二日間、クーラーなしで生活をしているのだけれど、いやはや辛い。窓を開けても、入ってくるのはじめじめとした生ぬるい空気だけで、たまに申し訳程度の風が入ってきたとしても、おせじにも涼しいとは言いがたい、そよそよとした弱々しいものだった。


その夜は、一度は床についたもののそのあまりの暑さになかなか寝付くことが出来ず一度起きてコンビニに行くことにしたのだ。明日には修理が入って、私が会社から入ってくる頃には、彼は涼しげな顔で私を迎えてくれることだろう。それまでの辛抱だ。


棚の上の人形に「言ってきます」と小さく言うと踵を返し、その狭く暑苦しい空間を後に...。
ブーン。ブーンと携帯が鳴る。たまにこういうことがある。まぁ慣れたものだ。表示は非通知。臆せずに私は出る。

「もしもし」

「.....」

無言。私は振り返り、棚の上の人形、綺麗な髪に優雅な帽子、ふわふわなドレスを着たフランス人形に話しかける。

「メリーさんも一緒にいく?」

もちろん返事はない。人形だもの。その代わりに、ふぁさっと、私の髪の毛が揺れる。風もないのに。それが彼女の意思表示。YESの場合はこうなる。なんという萌えキャラ。このツンデレめ。メリーさんも暑いのだろう。こんなドレスを着ているのだしね。


メリーさんという名前のこの子は、都市伝説で有名なフランス人形だ。まぁ呪いの人形...というと怖い感じもするが、結局、意思のある人形ということだ。彼女を拾ってから三ヶ月ほど経つけれど、まるで家族が一人増えたような感覚だ。「おはよう」にも「おやすみ」にも、彼女は私の髪を揺らして返事をしてくれる。言葉ではないとしても、返事が返ってくるというのは嬉しいものだ。決して、お人形相手に話しかけている痛い女子(27)ではない。
そう、決して。
ハハッ。

私は彼女をひょいと持ち上げると、鞄に入れる。とりあえず早くコンビニに行きたい。あのキンキンに冷えた幸せな空間に行きたい。メリーさんも同じはずだ。


『河童にコーラを飲ましたところ。』1



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電気で動く、私です。2

朝から降り続いた雨がようやく止んだ。公園の入り口には時折、終電で帰ってきたのであろう疲れきった顔の会社員が、重い足取りで帰路についているのが見えていた。

当時の私は生まれて二年目。まだこの仕事にも慣れていなかった。失敗という失敗はしたことがなかったがどうにも、ボタンを押されてから焦ってしまうことがあった。コーヒーはどこだったか、リンゴジュースはどこだったかと。まぁ焦るようなことではないのだけれど、『お客さんが待っている』と思うと、思うように頭が回らないのだ。


木から落ちてくる雫が、私の固い頭の上でトントンと一定のリズムを刻んでいた。雨の日、私はそれに耳を傾けるのが好きだ。


この時間ともなると、わざわざ公園に入って飲み物を買う人間なんていない。たまに物好きな会社員が、私からあたたかいコーヒーを買って、公園のベンチに座ってぼぅっとしていることがあるが、今日はあいにくの雨だ。そんな人間はいないだろう。
雫のリズムの中でそんなことを考えているとふと公園の入り口に、こちらへ来る人影が見えた。変わった人間がいたものだ。


私は身構える。お客さんが自分の前に来たら電気をパッとつける。仕事の基本だ。ばしゃばしゃと、しめった土の上を歩く音が近づいてくる。そこで、驚くべきことに気づいた。それは、女の子だったのだ。身長140弱ほどだろうか。小学四年前後に見える。
公園の時計を見る。十二時を少し回ったところだろうか。子どもの出歩きにしては、あまりに遅い時間だ。しかも目を引いたのは、その子が傘を持っていない。という点だ。雨は上がっているとはいえ、またいつ降るかもわからないというのに。


その子は私の前に立つ。私は慌てて電気をつけた。ブーンという音とともに、彼女の顔が明かりに照らされる。幼い顔立ちに、真っすぐに切りそろえた前髪。どこにでもいそうな女の子だ。その子はポケットをまさぐると、じゃらじゃらと小銭を取り出した。そして私を見る。私をというか飲み物のサンプルを。しばらく迷った後小銭を入れ、上の方にあった温かいミルクティーのボタンを、とんと押す。私はそれを確認すると、ミルクティーをがしゃんと下に落とした。その子はそれを取り出すと、キャップを回し、一口。

ぷはぁ

口から白い息が、湯気のように空に上る。幸せそうな顔。寒空の下で温かい飲み物を飲んだ時の、人間の、満たされたような、幸せそうな顔は好きだ。その子はキャップを締め、まるで宝物を持つかのようにそれを両手で持った。そしてどこへいくでもなく、私の前でぼぅっと夜空を眺め始めた。私もつられて空を仰ぐ。


綺麗な冬の星空。北斗七星が瞬いている。この時期の、ここから見る星空は最高だ。私の仲間の話をたまに聞くことがあるのだけれど、建物のなかの、人通りの少ない廊下などに配置されている者も少なくないと聞く。それを聞いた時、私は自分のこの環境に感謝をしたものだ。
春は花。
夏は虫。
秋は枯葉で
冬は星。
四季を感じることが出来るこの公園は、すくなくとも暗い廊下よりは幸せだろう。

....ん?

嗚咽が聴こえた。視線を移すと、その子は星空を見ながら泣いていた。ミルクティーを両手で大事そうに持ちながら、大粒の涙を流している。理由なんて知る由もないが、余程の理由があるのだろう。我慢していたものが全部湧き出てきているかのようなすべてを吐き出すような、そんな泣き声だった。
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『私メリーさん。今あなたの後ろn (ry) 』 6 完



「もしもし」

と声をかける。

「私メリーさん。今あなたの前にいるの。」

聞いたことのない新しいパターンだ。確かに、彼女は私の前にいる。私は構わず彼女に問いかけることにした。

「来てくれてありがとう。どうして私のところへ来てくれたの?」

「.....」

相変わらず、問いには答えようとしない。どうしたものか。暖簾に腕押しとはこのことだ。

「....私...メリー....さん」

「?」

次に出た彼女の言葉は、まるで言い淀んでいるかのように途切れ途切れになっていた。迷いがあるかのような、そんな印象を受ける。思わず彼女の顔を覗き込むが、相変わらず可憐で無表情なフランス人形のままだった。

「どうしたの?」

「わた...シ...メリー...さン」

明らかに先ほどまでと様子がおかしい。凄く苦しそう。私にはまるで、嗚咽を漏らしながら言葉を絞り出しているかのように聴こえた。

「無理しないでいいんだよ?来てくれてありがとう」

「ワ...たし....」

また同じ言葉を続けるのかと思ったそのとき。不意に電話がプツッと切れた。そして、それと同時に彼女は、ぱたんっと床に倒れた。私は驚いて思わず体が跳ねる。そして静寂。先ほどまでの重苦しい空気が晴れ、いつもの家に戻った気がした。少なくとも、彼女から発せられる独特の殺気のようなものは、倒れた彼女からは感じなかった。まるでただの、人形になってしまったかのようだった。


恐る恐る、彼女に手を伸ばして、腰のあたりを優しく握ってみる。あら細い。羨ましい。急に動いたりしないだろうなぁ...。と顔を強ばらせながら、持ち上げる。あぁ、こんなに軽かったんだ。顔を見てみる。闇の中で見る彼女の顔は、陰っていて気味が悪かったがこうして明かりの下で、自分の腕の中に治まっている彼女を見ると、可愛くて、美しくて、なにか愛着のようなものが湧き出てくるのを感じた。きっと、これがこの人形なのだろう。
つまりは、呪いの人形。


言葉にしづらい不思議な魅力と、まるで生きているかのような雰囲気を纏った彼女。人を引き寄せてしまう彼女は、今までどんな人生を送ってきたのだろうか。ただ、一つ確かなことは次は私の番。だと言うことだろう。


これでこの話は終わり。その後、彼女から電話がかかってくることはないし、彼女が動きだすことも、今のところない。でも私は彼女に『呪われたまま』なのだ。私が彼女を捨てれば、きっと彼女はまた同じ行動に出るのだろう。彼女は今でも、私の家のリビングの棚の上にじぃっと座っている。不意に、彼女に背を向けると底知れぬ不安と刺すような視線を感じることがあるが。それは彼女が私を見張っている。ということなのかもしれない。



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肺に浮かぶ灰色の雲。

ぼぅっと、池袋の空を眺めていた。特に何を考えていた訳ではない。ただ単に、期せずして訪れたこの手持ち無沙汰な時間を、まるで他人事のようにぼぅっと眺めていた。

絶えず車が行き交う、排気ガス臭い明治通り。その脇の小さな喫煙所。私は暇な時、ここで煙草を燻らすのが日課だ。駅前ということもあって、ここはいつも喫煙者で溢れている。さながら有名人でもいるかのような人だかりだ。

その喫煙者の群れの中に、いつもある人物がいる。それはその群れの中でも、特に目立った存在だ。黒ずんで、まるで原形をとどめていない上着を何枚も羽織り、これまたボロボロの帽子。汚らしく煤けた黒い肌に、伸ばしっぱなしの髪と髭のホームレスだ。彼はどうしてだか、いつもここにいる。煙草を吸っている訳ではない。ただただ虚空を見つめ、その喫煙所の中で仁王立ちをしているのだ。

喫煙所の人間は、まるでそこには何もいないかのようにそのホームレスを無視する。明らかに異彩を放っているのに。明らかに異臭を漂わせているのに。恐ろしいほどに、重く不気味な存在感なのにだ。

都会の人間は、残酷だ。いや、都会にいると残酷になってしまうのだろうか。ホームレスや物乞いなんて、そこら中にいる。それを見て見ぬ振りをするのが、当たり前になってしまうのだ。決して視界に入っていない訳ではない。視界に入り、ホームレスだと認識した上でまるで画像を加工してその姿を消してしまうかのように、その存在を自分の『視界』という額縁の中から消してしまう。

あぁ…煙草を燻らしていると、こういう、無駄なことを考えてしまうな。

...あぁほら。
これを『無駄なこと』だと考えている時点で私も彼らの群れの中で『残酷』になっている。まるでそれが正しいかのように。まるでそれが当たり前かのように。

きっとこの煙草を消して、歩き出す頃には私はあのホームレスのことなど頭の中から消えて、次ここに来るその日まで、思い出すことはないのだろう。そういうものだ。

さてと、そろそろ時間だ。群れから出るとしようか。
...いや、もう1本吸ってしまおう。
この残酷な群れの中で残酷な考えをしながら
もう少しだけ肺を曇らすとしよう。


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『私メリーさん。今あなたの後ろn (ry)』5



ブーン。ブーン。

携帯が鳴った。さぁ、来い。私は電話に出て

「もしもし、佐伯です」

と言葉をかけた。

「......」

返事がない。テンプレート通りなら、ここで「あなたの後ろにいるの」とくるのだが残念ながら私の後ろは壁だ。さてどうくるか。言い知れぬ緊張感が私を襲う。

「もしもし?」

「私メリーさん。今あなたの家の中にいるの。」

メリーさん。アレンジしてきた。これは予想だにしていなかった。まさかこれほどアドリブ力があるとは。つまりこれは、次に私が背を向けた瞬間に襲ってくるということだろうか。さて、どうしよう。彼女は既に家の中にいる。つまり、私の声は聴こえるということだろう。私のやるべきことは一つだった。とにかく、話しかけるのだ。

「メリーさん...いるの??」

......。

返事はない。

「電話くれてありがとう」

......。

返事はない。万事休す。このまま返事がないままだとしたら....。その時だった。

スーー

と、何かが這うような音が聞こえてきた。それは玄関から、こちらへ向かって進んでいるようだった。さすがになかなか、怖い。だが、私は声をかけ続けた。

「入ってきて良いよ?お話ししましょ?」

というが早いか、音が止む。そして、玄関とこの部屋を仕切るドアのノブがガチャと回り、ゆっくりゆっくり扉が開き始めた。闇が、少しずつこの部屋へ流れ込んでくるかのような、重苦しい不気味さがあった。思わずつばを飲みこむ。じぃっと、開いた扉の奥の闇の中に目を凝らすと、そこには一体の人形が立っているのが見えた。


可憐なフランス人形。なのだけれど、ふわふわとしたドレスは縮れ、泥で汚れているのがここからでもわかる。優雅な帽子も所々黒ずんでいるようだ。
とてもじゃないが、大事にされていたとは言いがたい身なりだった。

「こんばんわ」

私は声をかける。こういう状況は慣れている。我ながら肝が据わっているものだ。私は更に続けた。

「こっちへおいで。お話ししよ?」

子どもに問いかけるような、優しい口調になってしまう。それはその人形が予想以上に、細く小さく、可憐だったからだろうか。その人形はしばらく考えるかのようにその場で動かなくなり、しばらくするとスーと、私に向かって動き出した。歩いている訳ではない。『滑っている』という表現が正しいのだろうか。スカートから伸びている脚はいっさい動いていないのだけれど、まるで床の上にレールがあるかのように、滑らかにこちらへ進んでくるのだ。


明かりの下へ来ると、彼女の容姿が明らかになった。フランス人形そのものと言った風貌だ。虚ろな目は、どこを見ている訳でもなく、ただ自分の前の空間を見ている。少しふっくらとした頬に、長くボサボサの髪の毛が掛かっていた。正直な話、印象としては『不気味』意外の何ものでもなかった。

「どうして私の家に来たの?」

と私は問いかけた。

「....」

相変わらず返事はない。怖い。さすがに怖い。自分の鼓動が早くなるのを感じた。どうしたものか。とりあえずビールに手を伸ばし、一口。ぷはぁー。うーん。どうしよ。

「困ったなぁ。何か言ってよ。」

と少し呆れた声で言った。その時だった。
ブーン。ブーン

携帯が鳴る。見ると、非通知。さて、どういうことだろうか。彼女の顔を覗き込む。だが、相変わらず無表情でなにもない空間を見つめている。私はその電話に出ることにした。

「もしもし」
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