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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

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ドラ◯もん。1

ひどく暑い、夏のある日のことだった。
その日はどうしてだか、朝の四時頃に目が覚めてしまった。いつも眠りは深い方なので、学校のある日でも、大抵遅刻ぎりぎりまで絶対に起きないのだけれど。珍しいこともあるものだと、だるい体を布団から起こし、のそのそと用を足しに行く。トイレは一階にしかないので、出来るだけ足音がしないように、そろりそろりと階段を下りる。ふぁぁ。あくびが止まらない。まだ外も暗いようだ。部屋に戻ったらもう一眠りしよう。用を足し終え部屋に戻ろうと、階段を上り、自分の部屋の扉に手をかける。

…?

自分の部屋から、風を感じた。外の音も聞こえる。窓は開けていないし、クーラーもついていないはずなのだけれど。まさか、泥棒か?この短い間に?
恐る恐る、ゆっくりと扉を開ける。


案の定、窓は開いていて、朝の柔らかな光が部屋を覆っていた。思わず顔をしかめる。そしてその光の中に、誰かがいるのが見えた。まだ目が慣れていない私には、まるでその『何か』が今まさに、光の中から生まれようとしているように見えた。不思議と恐怖は薄らいでいた。なによりも、あまりに不意打ちに現れた幻想的なその光景に唖然していたのだ。


光の中に目を凝らすと、窓辺に誰かが座っているのが見えた。その『誰か』は、私の部屋から見える町の風景をじぃっと眺めていた。長く綺麗な金髪が風になびいてきらきらと光っている。外を見ているので顔はわからないが、随分と細くて長身。後ろ姿からでは男か女かさえわからなかった。何より目を引いたのは、その服装だ。赤いマントに白いシャツに黒いズボン。首には黒いアクセサリーをつけていた。まるでゲームの中から飛び出してきたような、現実離れした存在感があった。


「あの…誰?」


恐る恐る声をかける。その『誰か』はゆっくりとこちらを向いた。思わずハッとするほどに整った中性的な顔は、白人女性を連想させた。

「あぁ、君がさとる君かい?」

声は男性の声だった。やたら中性的な男性らしい。

「そう…ですけど。あんた誰?」

素朴な疑問を投げかける。彼は私の言葉を聞くと、呆れるように溜め息をつく。一挙一動が美しく、可憐で精錬されていた。そして再び窓の外に視線を向ける。

「やっぱり、わからないんだね」

寂しげな横顔。それでさえ、美しいと思った。

「…すみません」

訳が分からないまま、謝ってしまった。どうにも彼の不思議な空気感に巻き込まれている。そしてしばらくの間を置いて、彼は言った。

「ドラ◯もん…。といえば解るかい?」



ドラ◯もん。2


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電気で動く、私です 3



 人間の考えていることなどわからない。私は人間に作られた機械だ。公園に置かれ、自分の責務を果たす為だけに生まれた身だ。もちろん、嬉しいや悲しいなどの感情はあるものの、人のそれとは随分と差がある。それは『他との繋がり』だ。私のそれは、単純に『商品が売れた』などの類の喜びだ。誰かと離れて寂しい。などといったこともなければ、まして死別の悲しさなどは、全くもって理解できない。たまに公園で雑談をしている暇そうな人間の話を聞いて、そういう悲しさや寂しさがあるということだけは知っているけれど、知識として知ってはいても、共感はできないのだ。だから、私の前でわんわんと泣きはじめたその女の子に対して、私は

「うるさい」

としか思わなかった。

「え・・・?」

女の子が驚いたように周りをきょろきょろと見回す。しまった、声が出てしまったようだ。

「誰かいるんですか?」

その子が恐る恐る、搾り出すような声を出す。もちろん、私は返事など返さない。こんな失敗は初めてだ。人に話しかけるなど…。その子は怯えたように背中を丸め、辺りをうかがっている。当然だ。自分一人しかいないと思っていた場所で、急に至近距離から声が聞こえたら、誰でも怯えるだろう。


その時、私はどうしてだか『この子と話してみよう』という気になった。泣いている理由が知りたかった。という言い訳をつけてみたが、結局は『人間と話がしてみたかった』というのが一番大きかった。その頃の私は、機械としての自覚というか、ストイックさが足りなかったのだろう。人と話してみたいなど、今思えば言語道断だ。

「ここだよ」

私は緊張しながらその子に話しかけた。生まれて初めて自分の声を聴いたのもこの時だった。

「誰…どこですか??」

その子は私の前で問いかける。目の前にいるのに。

「私だよ。目の前。そうそこ!」

きょろきょろとしていたその子の視線が、私の前で止まる。頭の上に大きな『?』が浮かんでいるのが見えた。

「そこ?」

「そう、そこ」

「あなた?」

「そう、私」

その子は、じぃっと私を見つめたまま止まってしまった。そして急にハッとして私の後ろを覗き込む。当然誰もいない。
私は構わず話しかける。

「飲み物を買ってくれてありがとう。美味しかった?」

その子は、口をあんぐり開けたまま動かなくなってしまった。そんなに驚くことだろうか。

「美味しかった…です」

お、返事してくれた。嬉しくなって私は更に話しかける。

「それは良かった。それは人気があるんだよ。売り切れになってしまう日もあるんだ。」

「うん。甘くて美味しい」

「でしょ。しかも今日は特に寒いからね。温まるでしょ?」

「うん。あったかい」

素直な子だ。そして私は本題に移る。



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夜の橋。



目を開けると、そこは橋の上だった。
見たこともない景色だ。ここはどこなのだろう。
見上げると、見たこともないような満天の星空が広がっていた。
きらきらと瞬く星空の下、私は一人、立っている。

そこは、海の上を渡す、白い石で出来た大きな橋の上。
聴こえるのは波の音だけ。それ以外は何一つ聴こえなかった。
夜の海独特の潮の匂いが体を包んでいた。

周りを見渡す。
橋は地平線の彼方からこちらへ伸びていて
また地平線の彼方へ伸びていた。
終わりがまるで見えない。

そもそも私はどちらから来たのだろう。
そもそも私はどうしてここにいるのだろう。
欄干へ近づくくと、橋の下から聴こえる波の音が一層大きくなった。

ざーっ。ざーっ。

恐る恐る下を覗きこむ。
目を凝らすと、橋にぶつかり飛沫を上げる波がかろうじて見えた。
暗い世界に、波の轟音。
まるで言葉で責められているかのような圧迫感がある。

それでも、明かりなどどこにもないのに
橋の形や波の動きがはっきりと見えるのは
満天の星空と月の光が橋の白をうつして
優しく私を照らしてくれているからだろう。


海面はその光を反射して、きらきらと光っている。
それがまるで星のように見えるので
地平線の近くを見ると星空と海の境界線がまるでわからなかった。

まるで上も下も星空で
その宇宙の真ん中に橋が架かっているかのような
不思議な感覚だ。

きっと、ここは私の夢の中なのだろう。
私はこんな素敵な場所は知らないし
こんな綺麗な星空も見たことはない。

きっと、こんな場所があったらいいなという
私の理想なのだ。
きっと、こんな星空が見てみたいという
私の理想なのだ。

夢から覚めたら消えてしまうのだろう。
でも今は、私のもの。
この潮の匂いも、肌に感じる海の風も
この、海面と星空で作り上げられた宇宙も
今は私の独り占め。

私は橋の中心に立ち、ばっっと両手を広げる。
いつかこんな世界を、現実の自分の目で見たいと強く思った。

きっと世界には、この夢の世界よりも素敵な世界が
山ほどあるのだろうから。

めいっぱい背伸びして、体を伸ばしても
どうやら星空には届きそうにない。

そう
世界は私が両手を広げるよりも
ずっとずっと広いのだ。


ここは夜の橋。
夢の中の、私の橋。




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河童にコーラを飲ましたところ。2



やっとの思いで、コンビニにつく。自動ドアが開くと、涼しく快適な風が私を包んだ。あぁ、やっぱりクーラーは最高だ!

あの後、背中で水の音を聞きながら足早に道を歩いていたのだけれど、数分置きに、明らかに風ではない何かが髪を揺らしてくる。メリーさんが何かを伝えようとしているのは解るのだけれど、その内容が、どうにも解らない。そうこうしているうちにコンビニへと着いてしまった。


とりあえず、商品を選ぼう。涼みたいのでできるだけ時間をかけて。帰り道もあの蒸し暑い道を通ることを考えると、飲み水は必須だ。アイスも買おう。チョコのやつ。ペットボトル飲料を鞄の中に入れてメリーさんを冷やすことも忘れない。まぁ人形が暑さを感じるのかどうかは不明だけれど。後は、私の好きな炭酸飲料とポテチ。そんなところだろうか。レジへ並ぶ。うおぉ。意外とお金を使ってしまった。我ながら計画性のない出費だ。


幸せに包まれつつも、またあの熱帯夜の道を歩かなければならないのだと考えるとひどく憂鬱になる。あの水の音も気になるし。まぁ、道を変えてもよいのだけれどね。ただ、もう一つの道のほうは本当に真っ暗な林道で、この時間だと文字通り、一寸先は闇。街灯も少ないので懐中電灯もなしで歩くには一苦労だろう。


足取り重くも、私はコンビニを後にする。自動ドアから出ると、熱風が私を襲う。うがぁー。あつーいー。あっという間に体から汗が噴き出してくる。袋からペットボトルを取り出し、一口飲んだ。いろはすうめぇー。そしてそのペットボトルを、鞄の中のメリーさんに当たるように仕舞う。これでOK。私は暗い帰路を急いだ。


しばらく歩くと、またあの川沿いに出た。ふぁさっと、さっそく髪が揺れる。やはりここには何かがあるのだろう。まだ水の音は聴こえていないにしろ、髪が揺れたということは、どうやらあの水の主はまだここにいるらしい。歩くスピードを速める。巻き込まれるのはごめんだ。などと考えていると、またふぁさっと激しく髪が揺れる。わかったよ。早く帰ろうね。心の中でメリーさんに話しかける。幾度も幾度も髪を揺らされ、額がくすぐったい。


これ、他の人から見たらどうなのだろう。『うわ、なにあの人、髪の毛揺れまくってる。きもーい。』ってことにならないだろうか。いや、それよりこの不自然な揺れ方に驚いて見て見ぬ振りをするのかしら。というかカツラだと疑われたりしないだろうか。それは嫌だ。


と馬鹿なことを考えていた、その時だった。
ブーン。ブーン。
鞄の中の携帯が鳴る。驚いた私は足を止め、携帯を取り出す。
表示は非通知。もう一時近い。会社の人間だとも友達だとも考えづらい。
となると..。メリーさん?

鞄の中に手を入れ、メリーさんに触れる。
触れ...る。
あれ。

いない!?!?


河童にコーラを飲ましたところ。3


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河童にコーラを飲ましたところ。1




うおぉぉぉ。何だこの暑さは。
部屋から出て、コンビニへ向けて歩き出すと、あっという間に汗だくになってしまった。全く、夏は苦手だ。べたべたと体に纏わり付く湿気に顔をしかめる。メリーさんは大丈夫だろうか。鞄の中は暑そうだけれど。


コンビニまでの道中、川の流れている林の脇を通る。この場所は風情があって好きだ。川の流れる音と、所々から聴こえる蝉の鳴き声。林の中を進んで、川の近くへ寄ると、今の時期だったら蛍を見ることが出来る。私のお気に入りの場所だ。暑いし蚊が多いので滅多に行かないけれど。


時間はもうそろそろ十二時。田舎なので人通りはない。街灯は少ないし、見通しも悪いので女の一人歩きとなると少し不安になる場所ではある。まぁ、林の反対側には疎らにではあるが住宅もあるし、そして鞄の中には呪いの人形であるメリーさんもいる。護ってくれるかは不明だけれど。いや、私は彼女に呪われている身なのだけれど。


ばしゃっと川の方で、音がした。魚でも跳ねたのだろうか?気にせずに歩く。
ばしゃばしゃ。
随分とアグレッシブな魚だ。発情期か?気にせずに進む。
その時、ふぁさっと私の髪が、激しく揺れた。風もないのに。となると
「メリーさん?」

鞄の中に声をかける。どうしたのだろう。彼女はよほどのことがない限り、私に意思表示をすることはない。不満がある時だとか、私が何かを忘れている時だとか。まして、外でなんて、初めてのことだった。私は鞄の中に手をいれて、彼女を外に出し、その可憐な顔を覗き込む

「どうしたの?」

「....」

彼女はいつもと変わらず、無表情で虚空を見つめている。うーん。喋ってくれれば楽なのだけれどなぁ。でも、何かしらの理由があるはずだ。私は注意深く周りを見渡す。
ばしゃ。
また川の方から音がした。目を向ける。この音が原因だろうか。ただの魚だと思っていたのだけれど...。
ばしゃ。ばしゃ。
これまでよりも激しい音が2回響いた。思わず体が跳ねる。と同時に。髪が激しく揺れた。やはり彼女が何かを伝えたがっている。言いようのない恐怖感。音の主は魚ではないのかしら....?
不安になった私は、コンビニへの道を急ぐことにした。

背後からは、まだ水の音がばしゃばしゃと、まるで私を責めるかのように、夜の闇に響いていた。




河童にコーラを飲ましたところ。2

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