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ふくろうの筆箱

不思議・妖怪・幽霊系の短編小説

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夕陽の中にあなたがいる

人を待つ時間というのは、なかなか暇なものだ。
だが、その相手が恋しい相手だとしたら、その時間の持つ意味は少し変わってくる。
退屈なはずの時間でさえ、もうすぐその人に会えると思うと
愛おしく思えたりもする。



私は駅の改札の前で彼女を待っていた。
電車が到着するたびに、改札の向こうをきょろきょろと見てしまう私は
端から見たら、情けなく映るのだろうか。

時刻は夕刻、窓の外には美しい夕陽が明日に向かって歩いていた。





もう少しで、彼女が到着するはずだ。私は揚々とそれを待つ。
きっとこの幸せな時間は何年も後に思い出すのだ。

その時に隣にいるのは、誰なのだろうか。
私は夕陽の中に問いかけてみた。


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有明に浮かぶ望遠鏡


島原港を出航した後、私は船のデッキに出た。

冷たい風と潮の匂いが体を包む。
私は被写体を探そうと、デッキを歩きはじめた。

足を一歩踏み出すたびに、かんかんとうるさい音が響く。
古い船体は所々塗装が剥げ、黒い錆が目立っていた。

ふと目についたのは、煤けた望遠鏡。
古い船体に張り付くように、いくつも取り付けられていたそれは
どれも、まるでうな垂れるように下を向いていた。



写真は、そのうちの一人。
船の後ろ側に立っていた彼を、出航してきた島原の山とともに
カメラに納めた。

寂しげで、悲しげで、哀愁の漂う彼の後ろ姿は
物憂げに海を見下ろしているようにしか見えない。

新しい『レッドアロー号』なる高速フェリーの登場で
このフェリーを使う人間も随分と減ってしまった。

彼はこの広い海を眺めながら
まだ乗客の多かったあの頃を思い出しているのかもしれない。

そんなことを考えた。



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坂の下の公園。


引っ越してばかりの頃、私はこの町を知ろうと
よく散歩に出掛けていた。



駅までの道には小さな道と神社。
その日は何となく、いつもの道ではなく
神社の脇を抜けて線路のそばへ行ってみた。



そこは少し急な坂になっていて
その先には小さな公園があった。
この写真はその坂だ。

本当になんとなしにシャッターを切ったのだけれど
思いのほか味のある写真になった。

フェンスの向こうは線路になっていて
たまにガタガタと轟音を鳴らして貨物列車が通りすぎる。

それを横目に坂を下ると、小さな池があった。
大きなマンションに囲まれたこの公園は
子どもたちの格好の遊び場になっていた。

私の引っ越してきたマンションから、この公園が見えることを知ったのは
この写真を撮ってしばらくしてからのことだった。


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森と綿菓子

綺麗な青空に誘われて、カメラを持って外に出た。
深く濃い青色のキャンバスに、綿菓子を千切って撒いたかのような散れ散れとした雲が浮かんでいた。
その雲はゆっくりゆっくり、森の向こうへ飛んで行く。
私もその後ろ姿を追い、森へと足を進めた。
森の向こうの空は赤く染まり、人々に日暮れを告げていた。
青と赤のコントラストに、まばらな薄い雲。
私はカメラのレンズを覗き、シャッターを切る。
森の木々は思ったよりも暗く写った。
だが、それが空の青と夕焼けをより美しくしているようにも見えた。
一日の終わりに向けて動く空の流れ。夕陽に吸い込まれて行く雲の動き。
私はその、美しくどこかノスタルジックな光景に魅せられ
時間を忘れてシャッターを切り続けた。

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河童にコーラを飲ましたところ。4



しかし、この暗闇の中で音の主を探すのは骨が折れそうだ。しかも、それがどういう外見をしているのか、想像もつかない。誰かが助けを求めているのか、はたまたメリーさんのような人外のものなのか。私は辺りを見回す。なんの変哲もない、小石が堆積した川原だ。メリーさんもここまで連れてきたのだから、何かしらヒントをくれればいいのに。

ばしゃ
 
不意に大きな水音が響き、私は反射的にそちらへ目を向ける。川の中で何か跳ねたのだろうか。目を凝らすが、特に変わったところはないように見える。私は意を決して、川の近くへ寄ってみることにした。まさに一寸先は闇。水面が月明かりに反射しているので川は確認できるが、例え人が倒れていたとしても、見つけられるかどうか。少し進むと、足に水の感触があった。うーん。これ以上進むと危ない気がする。私が川の中の捜索を諦めて、踵を返そうとしたその時だった。

がしっ

何者かが、私の右足首を強く掴み、川の方へ引っ張る。驚いて声を出すことすら出来なかった私は、その強い力に負けて、その場に倒れ込んだ。

え!?

叫んだつもりだったのが、恐怖からなのか、喉の奥で、蚊の鳴くほど小さなの声しか出せなかった。手はなおも私を川へ引きずり込もうとしている。その強い力で。

強い力で‥…。
ん?

あまりに驚いて倒れ込んでしまったけれど、手が私を引っ張る力は、さほど強くないことに気づいた。というか、弱い。引っ張っていることには違いないのだけれど、冷静になってみると、それは本当に微弱で弱々しい力だった。少なくとも、この力では私を川の中へ引きずり込むのは無理だろう。自分の足を掴んだ手に目を向ける。小さくて、まるで子供のような手だ。しかし、人間のそれとは随分と違う。指の数も少ないし、小さな水かきのようなものが付いている。これはどうみても人外のものだろう。


さて、どうしたものか。その手をもう片方の足で蹴れば、振りほどくことは容易く成せるだろう。でも、この手の主の姿が気になるし、メリーさんがわざわざ、私を危険に合わせるためだけにここに誘導したとは考えにくい。いや、呪いの人形だから当たり前なのかしら。いや、彼女に限ってそんなことはない。はずだ。きっと。

私は意を決してその場で立ち上がると、深呼吸。そして、その弱々しい人外の手に、そろりそろりと手を伸ばす。
そして、その手首を力強くガシッと掴み

そぉぉぉぉぉいッッッ!!!

と思い切り引っ張った。


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